私たちの体内で分泌されるホルモンは、血液やリンパ液に乗って全身を巡り、様々な臓器や組織に働きかけます。そのホルモンが、なぜ「毛髪」という、一見関係なさそうな場所で測定できるのでしょうか。このメカニズムには、毛髪の成長プロセスが深く関わっています。毛髪は毛根で作られ、皮膚の表面に向かって伸びていきます。この毛髪が成長する過程で、血流に乗って運ばれてきたホルモンが毛根の細胞に取り込まれます。一度毛髪に取り込まれたホルモンは、その後毛髪の成長に伴って毛髪内に閉じ込められ、蓄積されていきます。例えるなら、毛髪は体内のホルモン分泌量を記録する「タイムカプセル」のような役割を果たしていると言えます。毛髪の根元に近い部分は比較的最近の情報、毛先に行くほど過去の情報が記録されていると考えられています。毛髪ホルモン量測定キットで通常採取するのは根元から数センチの毛髪ですが、これは過去数週間から数ヶ月間の平均的なホルモン分泌量を反映するとされています。この「長期的な平均値」が分かることが、毛髪検査の大きな特徴です。血液検査がその瞬間のホルモン量を測るのに対し、毛髪検査はより長期的な傾向や慢性的な状態を把握するのに適しています。例えば、ストレスホルモンであるコルチゾールは、ストレスを感じた瞬間に血液中で急上昇しますが、毛髪中のコルチゾール量は、慢性的なストレスレベルを反映すると考えられています。この特性を利用することで、自覚しにくい体内の変化や、長期間にわたる負荷の影響を知る手がかりが得られますのです。ただし、毛髪検査で測定できるのは、あくまで毛髪に蓄積されたホルモンの量であり、血中の遊離型ホルモン量や、組織でのホルモンの働きそのものを直接的に測るものではありません。また、毛髪の成長速度や性質には個人差があるため、結果の解釈には注意が必要です。しかし、非侵襲的で手軽に過去のホルモン状態の傾向を知る方法としては、毛髪ホルモン量測定は非常に有効であり、健康管理や体調管理の新しいアプローチとして注目されています。なぜ毛髪で測れるのかを知ることで、この検査の価値や限界をより深く理解し、自身の健康に活かすことができるでしょう。
なぜ毛髪でホルモン量が測れるのか